こんにちは!
あざみ野・新百合ヶ丘・たまプラーザの学習塾/予備校の
MySTEP(マイステップ)です!
保護者の方から「読解力がなくて困っている」という相談をよく受けます。
授業内でも、「教科書の内容がわからない」「問題の意味が分からない」という課題を抱えた生徒も多くなっています。
そこで、今回は、「読解力」をテーマに、これから身に付けたい学力などについてお伝えします。
「読解力」で学力が決まる!?
「読解力」と聞くと、国語の問題を解くことをイメージされる方が多いかもしれませんが、それだけではありません。
むしろ、どの高校や大学に入れるかは、学習量でも知識量でも運でもなく、「読解力」で決まるという見解を述べる研究者もいます。
「読解力」とは一体何なのでしょうか。
真の「読解力」とは
まず、「読解力」にも様々な意味がありますが、ここでは「文章の意味内容を理解する」ということだとします。
「それなら、僕(私)はできる」と思うかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
以下の問題を見てください。
(問)社会
弥生時代の出来事について、次のうちから正しいものをすべて選びなさい。
① 稲作が始まる。
② 応仁の乱がおこる。
③ 漢の国王から金印を授けられる。
④ 聖徳太子が摂政に就任する。
正解は①と③ですが、こうした問題で誤答する生徒は多いです。
その理由は、単に知識が定着していないのではなく、問題をきちんと読み取れていないのです。どの部分を読み取れていないのかというと、
弥生時代の出来事について、次のうちから正しいものをすべて選びなさい。
この「すべて」という部分です。
こうした問題を解く際に、「すべて」の部分を読み飛ばし、解答欄に1つしか答えを書かなかったという経験はありませんか?
こうしたミスをケアレスミスと捉えて放置していませんか?
「ちょっと注意力が足りないだけ」
「集中できていなかっただけ」と高を括ってはいませんか?
しかし、このミスこそが「文章の意味内容を理解する」ということができていないことを表しているのです。
「読解力」は国語のためだけの力ではなく全教科で、さらに踏み込んでいくと、社会で必要とされる重要なスキルなのです。
教科書が読めない子どもたち
こうした「読解力」に関する調査を行っている研究者の一人に新井紀子さんがいます。
新井さんは、2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を進めており、その研究の中で、学生が持つ「読解力」に疑問を持ち始めました。
当時、日本数学会の教育委員長でもあった新井さんは、現役大学生に対して「大学生数学基本調査」を行い、その結果から大学生には、数学力よりも「読解力」に問題があることを指摘しました。
なぜなら、数学のスキルを問うような問題ではなく、単純な言葉の問題での正答率が約65%だったからです。さらに、国立クラスでは正答率85%だったのに対し、私大中堅クラスでは50%をきっていたそうです。
このことから新井さんは、「どの大学に入れるかは、論理的な読解と推論の力で決まる」と考えました。
今の学校教育の中では、「子どもたちは教科書を理解できる」ことが前提として学習が進められており、そもそも教科書が読めない子たちに合わせていくことは難しいのが現状です。
教科書が読めなければ、成績が取れないだけでなく、社会に出たときに説明書や会社などの資料が読めず、結局は仕事を辞めることになり、社会で生きていけなくなってしまいます。
そのことに危機感を持った新井さんは、大学生だけでなく中高生の「読解力」調査を開発、実施します。
それが「リーディングスキルテスト(RST)」です。
このテストは、中高生に教科書に書いてあるような文を読ませて「読解力」を測ろうとするテストです。
新井さんは、同時期に進めていた人工知能プロジェクトの中で、AIに人間が勝てる分野に「推論」「イメージ同定」「具体例同定」があると推測しています。
「推論」
文の構造を理解した上で、生活体験や常識、さまざまな知識を総動員して文章の意味を理解する力「イメージ同定」文章と図形やグラフを比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力「具体例同定」定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力
新井紀子『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』より
以上の3つの力は、言葉の意味を理解しないAIには無理だろうと推測されています。
これらの力がなければ、大量のドリルと丸暗記以外は勉強する術がありません。
「偶数+奇数は奇数である」という内容を証明する際に、1+2=3,2+3=5・・・などのように、無数にある数を永遠に足していかなければならないのと同じなのです。
「リーディングスキルテスト(RST)」では、中高生に向けてこうした力などが調査され、年代別の細かい正答率や誤答率が出されました。その中でわかってきたのは、子どもたちが簡単な文章を読めていないということでした。
ここで、「リーディングスキルテスト(RST)」の例題をご紹介します。
[問2]
次の文を読みなさい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
① Alex ② Alexander ③ 男性 ④ 女性
新井紀子『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』より
この問題は、AIですら正答率80%を出せるような問題です。
正解は①Alexですが、一見こんな簡単な問題で「読解力」が測れるのかと疑問に思う方もいるでしょう。
しかし、全国の中学生の正答率は38%という結果になりました。
さらに中学1年生では23%という結果です。これは、4択問題をランダムで選んだときの25%を下回っています。
つまり、勘で解いたほうが正解しやすいということです。
さらに、高校生でも正答率65%と、3人に2人しか正解できない値となりました。ここまでで、中高生の「読解力」の実態がご理解いただけたかと思います。
さらに結果を詳しく見ていくと、④女性を選んだ子が半数近くいたそうです。
これは、「Alexandraの愛称は女性である」と考えた子がいたということです。
おそらく、「愛称」という言葉の意味が理解できなかったために、読み飛ばしてしまったのだろうと新井さんは分析しました。
さらに新井さんは、この結果から中高生の語彙力が不足しているのではないかということを推測したのです。
実際の現場に立つ中学校の先生の話では、「首相」を「しゅそう」と読むなど言葉を正しく音読できない子や、「学」という字が書いてある言葉は全て「がっこう」と読むようにしている子がいるといいます。
その子の話では、「『がっこう』と読めば当たりやすいから」だそうです。
これは、特殊な例ではありません。
こうしたことがまさに、身近な現場でも起きているのです。
そもそも脳が何かの情報を取り込もうとするとき、「トップダウン処理」という方法をとります。
「トップダウン処理」とは、言葉がどのような文脈で出てきたのかを判断し、ある程度仮説を立てて探っていくことを言います。いわゆる「推論」と同じです。
私たちは日常生活の中で無意識のうちに「トップダウン処理」を行っています。先ほどのAlexの問題でいえば、「『愛称』という言葉が分からないが、その前に『名前』という言葉があるということは、『名前』に関する言葉だろう」と経験や知識から予測することです。
この「トップダウン処理」を行うためには、ある程度の知識や経験がないといけません。
新井さんは、子どもたちには「知識」が不足しているのではないかということを「リーディングスキルテスト(RST)」のたった1問から判断したのです。
「リーディングスキルテスト(RST)」からわかったこと
「リーディングスキルテスト(RST)」では、子どもたちが持つ「読解力」の実態がわかりました。
ここで注目したいのは、その子が持つ「読みの偏り」が分析できるという点です。
先にご紹介したAlexの問題から、「④を選んだ子は『愛称』という言葉を知らない、つまり、語彙力が不足しているのではないか」ということが分析できました。
つまり、その子の解答からその子が文章を読むときの癖や状況が分析できれば、その子に合わせた「読解力」を身に付けさせる方法を見つけることができるということなのです。
世間には「読解力」を身に付けるという触れ込みの参考書や塾が多くありますが、ダイエットの方法のように、科学的根拠を持った「読解力」を身に付ける方法はまだ存在しないと新井さんは述べています。
ここで大事なのは、その子自身の特性に合わせた方法であるかどうかです。
読めない子には、それぞれ理由があります。
わからない単語があれば読み飛ばしてしまうだとか、記述に誤りがあっても活字になると正しく見えてしまうだとか。
そうした、その子自身が持つ「読みの偏り」を分析し、足りないものを補う作業こそが、「読解力」を身に付ける方法なのです。
子どもたちが本当の意味で「読解」できているかどうかを確かめるには、文章を「音読」させてみるとよいでしょう。
「音読」したときに、正しいイントネーションで話したり、言葉の間を取ることができたりしていれば、言葉の意味を正しく理解できていることがわかります。
それに対して、言葉の間が取れていなかったり、言葉に抑揚がなかったりする場合は、言葉の意味を理解せずに、ただ発音しているだけかもしれません。
その場合は、どの言葉を理解できていないのか、文章の意図は何なのかなどをきちんと話し合った上で、もう一度「音読」させてみてください。
そこで「音読」の状況が変われば、「読解」ができているという一つの目安となるでしょう。
これから身に付けたい学力
実は、今の中学校の定期テストの問題の中には、「読解力」がなくても解けてしまうような問題が多く存在しています。
最近は、スマホのアプリやiPadなどで簡単に学習ができるデジタルドリルが多く出回っていますが、小学生のうちからそうしたデジタルドリルに励んで、「勉強した気分」になり、テストでいい点数をとってしまうと、それが成功体験になり、読解力が不足していることに気づきにくくなる、と新井さんは述べています。
同じように、そうしたデジタルドリルをやっていれば、中学校の定期テストも解けてしまうのです。
しかし、入試問題はそうはいきません。
入試問題は、まさにこれまで述べてきた「読解力」が必要とされる問題ばかりなのです。
それはもちろん、先の教育改革で実施される「大学入学共通テスト」も同じです。
定期テストで良い点数が取れていても、入試問題になると良い結果が出ないというのは、「読解力」が身に付いていないのかもしれません。
教科書が読めなければ、予習も復習もできません。
自分一人では勉強できず、ずっと塾に通わなければなりません。
しかし、大学に塾はありません。もちろん、社会人にも、です。
今や、格差というのはどの大学を卒業したかどうかではなく、教科書が読めるかどうかで生じます。
「読解力」は、定期テストや入試のためだけでなく、社会で生きていくうえで非常に重要な力です。
そして、「読解力」があれば、塾や予備校に通わなくても自分一人で勉強ができます。
私たちは、そうした「読解力」を身に付けさせることができる指導を目指しています。
「読解力」は、中学卒業までに身に付けておきたい大事な力です。
お困りの際は、いつでもご相談ください。
[参考文献]
新井紀子『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社
市川伸一『勉強法の科学 心理学から学習を探る』岩波書店